桜時雨の降る頃
顔に掛けられていた白布をそっと取ると、

雫はその場で固まった。


「嘘じゃないの?」


ポツン、と呟くのが聴こえる。



「陽斗、目、開けてよ……」


みるみるうちに声に湿り気を帯びて、


「誰か、嘘だって言ってよぉ……」


ぎゅっと台の縁に掴まりながら、雫は崩れ落ちた。


うーっ、と涙を堪えるように顔を覆う雫に

俺もまた熱いものが目頭に浮かんできてギュウっと強く目を閉じる。





ダメだろ陽斗。

雫を泣かせるのは許さないんじゃなかったのかよ。


そのお前が、こんな形でっ……


ギリっと爪が食い込むほど握った拳に力が入った。


そして、ダンッ、と側の壁を力任せに叩く。

やり切れない想いを拳に込めて。


音に驚いた雫が、ビクっとしてこちらを振り返った。


俺の顔をまじまじと見つめたかと思うと、
またジワジワと目元に涙が溜まっていくのが分かる。



「朔斗、ごめんね……」



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