桜時雨の降る頃
涙声で俺に謝る雫に驚いて何も言えないでいると、


「わたしのせいだ。朔斗が誰よりも大事にしていたのに」

そう続けてきた。



「陽斗、ごめんね……」


返事をしない陽斗にまで、もはやうわ言のように繰り返す雫に、俺は堪らなくなって


しゃがみ込んでいた雫に駆け寄り

ギュッと自分の腕の中に抱き寄せた。


「謝るな。

お前が悪いんじゃない。絶対に、自分を責めるなよ」


俺の言葉は届いたんだろうか。


腕の中で、雫は頑なに首を横に振りながら

俺の胸元にしがみついて喉を震わせていた。



ーーーー絶対お前のせいじゃないんだ。


そう言い聞かせるように、俺は雫を更に強く抱き締めた。


雫の体温が伝わってくることに
俺は安心感を覚えてしまう。



陽斗の体温は既に失われていて

冷たくて

非情な現実に俺は打ちのめされていたから。



雫が生きていてくれてることに

陽斗が生かしてくれたということに


胸が熱くなって、また泣きそうになった俺は下唇を噛んで堪えた。



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