桜時雨の降る頃

俺は陽斗の瞳を見つめ返して穏やかに言った。


「知ってたよ、とっくに」


気持ちが溢れかかってることも。


「なんでここまで引っ張ったんだよ?
陽斗ならあいつは断わらねぇだろ」


「……それは」


陽斗は答えるのを迷いながら目を伏せて、
数秒の沈黙の後、ようやく声を発した。


「朔斗も雫に惚れてると思ったから。
それに、雫も」


ガツンと何かに殴られたような感覚を覚えて、俺はフリーズした。


……俺が、何だって?

“それに雫も?”


俺は目を見開いたまま、陽斗の次の言葉を待った。



「雫が好きなのは朔斗だ。多分ね。
だから、決定的にフラれるのも怖くて、仲良しの3人のままでいいってずっと……逃げてたんだ」


陽斗がそんなこと思ってたなんて。

確かに中学の頃にも言われたことはあったけど、ちゃんと否定したし、そんなのとっくに忘れていた。

自分の愚かさに目眩がしそうだった。

2人の重荷にならないように、ずっと俺は距離を置くように努めてきたのに。

結局、その努力も虚しく俺が雫を好きだと思わせてたとは。

ーーーーショックで、言葉が出てこなかった。





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