桜時雨の降る頃
俺の中で一番奥にしまい込んでいた気持ちを
言い当てられたような気がして、
俺は動揺を隠すので精一杯だった。


いや、隠せていなかったかもしれない。
思いっきり反発したことは、逆にそれが正解だと示してしまったんじゃないかと後悔が過ぎる。



「朔斗。

俺に雫取られてもいいの?」


最後の賭けに出たのか、陽斗は珍しく挑発的にそう言った。


拳を握り締めながら、ふとその力を緩める。


「……取られるも何も、俺のじゃねぇし」


そこまで話したところで、ピンポンとチャイムが鳴るのが聴こえた。

きっと雫だ。


「お前、余計なこと雫に言うなよ。
自分の気持ちをしっかり伝えるのが先だろ」

陽斗に背を向けたままそう告げる。


しばらく沈黙が降りたあと、


「……あぁ」

と渋々承諾するのが聴こえた。



俺たちを呼ぶ母さんの声が階下から響いてくる。

「行くぞ」

そう言って、俺たちは下へ降りていった。
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