桜時雨の降る頃
不機嫌な顔のままだったせいか、ケンカでもしたの?と母さんに目を丸くされたけど

陽斗のいつも通りの柔らかい対応でそれ以上詮索されずに済んだ。


玄関には浴衣姿の雫が立っていた。

髪もアップにしていて、いつもとは雰囲気も違う。

陽斗は素直に「可愛いね」と褒めてたが、
俺は「馬子にも衣装」なんて捻くれた言い方しか出来なかった。


陽斗みたいに素直だったら楽なんだろうな、と
ぼんやり思いながら靴を履いて外へ出た。


昔は親に連れられて3人でよく行ってた花火大会。


いつも人混みがすごくてげんなりするのに、
見ないで過ごす夏なんてあり得なくて
毎年欠かさず行っていた。


中学に入ってからはクラスの奴らとかも混じって団体で。


去年は、部の仲間とだから、陽斗と雫とは見ていない。

別行動を取るようになった俺とはもう、花火大会なんて行かないだろうと思っていたのに

雫は誘ってきた。


3人で見るのは今年が最後なのかもしれないと
なんとなく思った俺は

曖昧な返事をしておきながら結局、今日は予定を入れずにいた。







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