桜時雨の降る頃
雫は黙って、時折目を伏せながら聴いていた。

たぶん、俺の言ったとおりだったんだろう。

俺たちは3人とも、バランスが崩れるのが怖くて
何も踏み出せないでいたんだ。

けれど。


「俺は陽斗を止められない。ずっとあいつの気持ち知ってたし、それなのに……

お前にキスした」

2年前のあの日。
ムリヤリ色んな気持ちを押し込めた。
自分の衝動に嫌気も指した。


「…………覚えてたの」

掠れかかった声で呟く雫の瞳には
少しだけ動揺が見え隠れしていて、胸が痛い。


「バカか。さすがに忘れるほど非道じゃねーよ。……2人にひでぇことしたとは思ってるけど」


きっと雫にとっては最悪の思い出になっているだろう。

いや、思い出なんてキレイなものになんてしていないかもしれない。

その方がいい。

俺にとっては、雫との最初で最後のキスだから
きっと忘れないだろうけど…………


「あいつはきっと、3人でいたいっていう気持ちと雫を手に入れたいって気持ちに挟まれて、ずっと我慢してきたはずだ。

お前を大事にしてくれるのは、あいつしかいない」

ハッキリとそう告げると、

雫のゆらゆらした瞳が焦点を定めて、俺を突き刺してきた。

「……朔斗には他に大事にしたい人がいるの?」





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