桜時雨の降る頃
別離
あの日、霊安室で陽斗の遺体と向き合った時
わたしはその場で崩れ落ちた。
数時間前まで一緒にいたのに。
映画を見て、お茶して
もうすぐ大学生だね、なんて話をしてた。
さすがに大学までは同じではなかったから、
陽斗はわたしを心配していたし
わたしも心配していた。
きっとまた女の子にモテちゃうって。
でも陽斗は笑ってわたしの頭をくしゃっと優しく撫でてくれた。
「俺は雫だけだよ。
雫はどうか分かんないけど」
「何それ。わたしだって陽斗だけだよ」
「そうだといいけどね」
何か含むような言い方が気にはなった。
少し寂しそうな笑顔も。
どうして?
わたし、何か不安にさせてる?
「陽斗? 」
「ん?
あ、そうだ。もう少しで雫、誕生日だろ。何かしたいことある?」
話題をそれとなく変えられた気がしたけど、
どう訊いたらいいのかも分からなくてそのまま質問に答える形を取った。