桜時雨の降る頃





陽斗の告別式に参列した後、

わたしは近くの公園へふらっと足を運んでいた。


まだ当然怪我は癒えておらず、腕にはギプスがはめられたまま。


安静にしていなければいけなかったが、その日だけは、と参加した。


朝霧家には申し訳なくて、頭を上げられなかった。


もちろん双子のご両親や朔斗本人は
一度もわたしを責めるなんてことはしなかったし

むしろ、「あなたを護れたんだから、あの子は満足してるはずよ」と慰めてくれる始末だった。


辺りには桜がたくさん咲いていて

薄紅色の花々が空を埋め尽くすように見える。



「……お花見、行きそびれちゃった」


ベンチに腰掛けてボンヤリと桜色の空を見上げた。


早く行かなきゃ散っちゃうね、と

陽斗と話していたのに。


某夢の国にも行こうねって…………
約束した、のに。



ここ何日かで出尽くしたんじゃないかと思っていた涙がまた一筋、頬を伝っていく。


陽斗。

…………陽斗。



思い浮かぶのはいつも

笑顔の陽斗だ。

わたしを癒してくれる人。

遺影の中の陽斗も素敵な笑顔だった。






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