桜時雨の降る頃
灰色の雲が空に立ち込めてきて

空気が少し冷えるな、と感じ始めると同時に


ポツン、と冷たい滴がわたしの頬を濡らした。


さっきまでたくさんの人たちが公園にいた気がするのに

いつの間にか潮が引くようにその場からいなくなったらしく、随分人がまばらになっていた。


ポツ、ポツ、と

少しずつ冷たい雨が落ちてくるのを額やかざした手のひらに感じながらも


わたしはそれ以上動けずにいた。


魂が抜けた状態とはこういうことをいうのかもしれない。


何も考えられなかった。


今、わたしの頭の中を占めているのは

陽斗との思い出と温もり。


もう、逢えない。

ーーーー逢えないんだ。


そのことが酷くまた心を抉って


瞳に熱い滴が浮かんでくるのを止められない。



ヨロヨロと立ち上がって、1番傍にあった桜の幹に手をつき下を向いた。




「陽斗……………っ」


込み上げる悲しさと一緒に呻き声が漏れる。


わたしも一緒に連れて行ってくれたらよかったのに。


陽斗1人でなんて、逝かせたくなかった。






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