桜時雨の降る頃
強くなってきた雨が、桜を濡らして

その雨粒の重さに耐えられない花びらがたくさん散っていくのを眺めながら

わたしはうぅっと嗚咽を漏らした。


後から後から涙の粒が頬を伝っていく。

もはや雨で濡れてるのか涙で濡れてるのか分からない。


泣き過ぎて身体が熱いような

でも寒いような。


ーーーーそうか、このままこうしていれば


桜が陽斗の元へ連れていってくれるかな。



そんな非現実的なことが頭に浮かんだ時、


急に雨が止んだ。


ーーいや、違う。

遠くを眺めても雨は降り続いてる。

わたしの周りだけが切り取られたように雨から守られていた。



振り向くと、傘をわたしの方へ差してくれている人がいた。



どんなにそっくりでも

ううん、今だけ陽斗が乗り移ってるかもしれないと思いたくても

わたしには見分けがつく。

幻なんかじゃない。


「…………朔斗」


そう呟いた瞬間、傘が弾かれるように地面へ落ち、大きな身体がわたしを強く包み込んだ。


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