桜時雨の降る頃
呼吸がうまく出来ないほど強く抱き締められて

押し付けられた朔斗の胸からドクンドクンと力強い鼓動が伝わってくる。

ホーッと安心したように大きく息を吐いてから朔斗が口を開いた。


「…………捜したんだぞ」


朔斗の声は低く、震えていた。


「何考えてる?」


「…………」


わたしは何も答えられなくて、人形のようにダランと腕をぶら下げたままだ。


「陽斗が待ってる。行こう」


待ってる?

どこで?


キュッとわたしは唇を真一文字に結んだ。



いつになったら枯れるのか

涙がまたポロポロと落ちていく。


陽斗そっくりの顔と身体がわたしを包んでいるのに

この温もりは陽斗じゃない。


「雫。
お前が自分を大切にしないと陽斗が守った意味がない。わかるよな?」


諭すように、感情を抑えた声でわたしに問いかける。


「身体、冷えてる。…行こう」


落ちた傘を拾い上げ、そっとわたしの肩に腕を回してくる。


その優しさに耐えかねて、わたしは足を一歩も動かさずに朔斗に告げた。


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