桜時雨の降る頃
ふわりと微笑んだ陽斗は、
そのままわたしに唇を重ねた。


ーーーーわたしの目尻からまた一つ、涙の粒が零れ落ちた。



だって。


ーーーー温度が、ない。


そして目の前にもう、陽斗の姿はなかった。


ただ、桜の花びらがヒラヒラと舞っていた。



「待って陽斗。


行かないで。



わたしを置いて行かないで…………」



悲痛な叫びを残して


段々辺りは暗くなり


わたしだけがそこに座り込んでいた。







*****




気付くと、そこはわたしの部屋で。


傍には朔斗がいた。


ぎゅっとわたしの手を握っている。


「…………夢、見てたみたい」

ボンヤリとした頭で、その内容を思い出そうとしてもハッキリとは出てこない。


「…………そうみたいだな。

行かないで、って言って俺の手掴んできたぞ」


それじゃあまるで、甘えん坊みたいで
わたしは少し恥ずかしくなりパッと手を放した。












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