桜時雨の降る頃
朔斗の了承を得たわたしは、逸る胸を抑えながら階下へ降りて行った。
「ちょっと出かけてくるね」
「え、今から?」
「すぐ近くだから」
母に端的に伝えて、わたしは急ぎ家を出た。
この2年、なるべく通らないようにしていた朝霧家への道を早足で歩く。
どこからか舞い落ちる桜の花びらが夜の闇に浮かんでは消えていく。
3月の夜のまだ少し冷たい風が、ひらひらと花びらを舞い上がらせるんだ。
その様は、目に焼き付いて離れない
あの日の情景を嫌でも記憶から呼び起こす。
桜が満開なのに冷たい雨が降る中、泣きじゃくったあの日。
双子とお別れをしたあの日から
わたしは一歩も動けていないのかもしれない。