桜時雨の降る頃
どれくらいの沈黙が流れたんだろう。
もう時間の感覚も掴めないほどにわたしは憔悴しきっていた。
朔斗も俯いて黙ったまま。
ようやく涙が引いてきたわたしは、
ふらふらと立ち上がって朔斗に背を向けた。
「……付き合わせてごめんね、朔斗。
……バイバイ」
一瞬だけ朔斗に振り返り、ぎこちなく笑顔を作ってから、
逃げるようにわたしはそこを後にした。
朔斗とはもう会えない。
一緒にいる資格もない。
さっき朔斗に言ったのは、
その気持ちを含んだ“バイバイ”だった。
朔斗から返事は返ってこなかった。
朔斗を巻き込むんじゃなかった。
せっかく前を向き始めた彼の邪魔をしてしまったんじゃないかということだけが
心配ではあった。
バタン、と朝霧家の玄関ドアが閉じる音を背中で聴きながら
わたしは夜空を見上げた。
泣きすぎて瞼が重い。
ひりひりする目元に、外の少し冷えた空気が心地よかった。
目尻に残っていた滴がツー、と頬に一筋流れた。