桜時雨の降る頃
「陽斗のとこへなんか、行かせない」
怒りと哀しみに満ちた瞳が、わたしの瞳を捕らえる。
「お前は2年前に、心も体も半分、陽斗に持ってかれた。……そうだろ?」
生きてるのに、その実感のない2年。
灰色の2年。
いくら毎日を過ごしていても、ただ生きているだけの、彩りを失った時間だった。
「今また、お前は連れて行かれそうになってる。陽斗は絶対そんなこと望んでない」
朔斗の顔がもう、目の前にまで迫っていた。
ダン、とわたしの背後の桜の幹に強く拳を打ちつけてきて
わたしは朔斗の腕の中に閉じ込められるようなその状況に声も出せず彼を見上げた。
「……逃げんなよ、俺たちから。
お前が陽斗がいなきゃダメだっていうなら、俺が陽斗の代わりになる。
お前が陽斗に持ってかれたものは、俺が埋めてやる。
だから……」
いったん、そこで言葉を切る朔斗の想いに
胸から何かが込み上げてくる。
朔斗の強い瞳から零れ落ちる涙の粒を見て
……初めて見る熱い涙を見て、
わたしの瞳からも涙が溢れた。