桜時雨の降る頃



桜の花びらが夜風に吹かれてまたヒラヒラと舞い上がるのが朔斗の背中越しに見える。


「朔斗。

わたし、ずっと朔斗のこと好きだったみたい。

陽斗はどこかでそれに気付いてたんだよね。

……ひどい女でしょ?

それでもいいの?」


朔斗が誰よりも大事にしていた陽斗の気持ちに

わたしは甘えっぱなしだった。


「それを言うなら、俺もひでぇ兄貴だから

おあいこだろ」


片眉を下げて、儚げに笑う朔斗は

何だか本当に

陽斗が乗り移ってるんじゃないかと思うくらい

温かい。



「俺たちはもう、運命共同体だから。

お前がまた逃げようとしても絶対捕まえてやる」


ふん、と鼻を鳴らす朔斗に

ようやくわたしは微笑みを返した。


「もう、逃げないよ」


朔斗と生きてくと決めたから。

一緒にいることが辛くなることがあったとしても

離れて味わう辛さより、一緒にいる辛さを選ぶ。

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