桜時雨の降る頃
朔斗はわたしの両親に目配せをしてから静かに頷き、わたしの体を支えるように起こしてくれる。
――――行きたくない。怖い。
でも、確かめなきゃ。
言うことをきかない、痛む足をむりやり引きずって、わたしはその場所へ向かった。朔斗に支えられながら。
薄暗い廊下へたどり着くと、そこには朔斗と陽斗のご両親がいた。
「雫(しずく)ちゃん……」
嗚咽を漏らしていた陽斗たちのお母さんが、わたしに気付き声をかける。
それはとても弱々しく、ひどく掠れていた。
近づくと、泣き腫らした目をしているのが分かる。
そして目の前の部屋に書かれたプレートを目の当たりにして、ようやくこれが現実なのだと悟った。
――――『霊安室』
嘘だよって言ってほしかった。
あの陽だまりみたいにあったかい陽斗の笑顔で。