桜時雨の降る頃
そんな切ない空気を振り払うように

朔斗は無言でわたしの頭を撫でる手を止め、

ひょいっと顔を覗き込んできた。


「涙、止まったな」


「……泣いてないから。ゴミが入っただけ」


目を合わせるのが恥ずかしくて、ぷいっとソッポを向きながらまた強情を張る。


「さっきと理由違うし。まぁいいや、もう」

はぁ、と溜息を吐くのが聞こえた。


「もう泣くなよ。俺に期待すんな。何もしてやれねぇから」

その言葉にチクンと痛みを感じる。
きっとそのセリフには裏の意味がある。



ーーーー“俺はお前を女として受け入れられない”

ってことだろう。



「……やっぱり冷たい」

ふふ、と苦笑いを浮かべた。


「……知ってる」

口角を上げた朔斗の顔を今度はハッキリと捉えて、その瞳を見つめた。


朔斗の瞳の奥で、何かが揺らめいてるように見える。


ポケッとそれを見つめていたわたしは、

お互いの唇が触れそうなほど近くになっていたことに気付かなかった。









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