桜時雨の降る頃
それはほんの一瞬の出来事だった。

ハッと我に返ったように朔斗がすぐ唇を離したからだ。


自分が信じられないとでもいうように唖然として、眉間に皺を寄せている。


「なっ……にしてんだ俺……」

独り言のように呟く朔斗を、わたしは呆然と見ていた。

身体が、動かなかった。


「悪い。……忘れて」


その一言で頭に血が上ったわたしは

気付いたら、パシッと

朔斗の頬を平手打ちしていた。


「忘れろ、ばっかり! もう知らない、朔斗のバカ!!」


悔しくて、また涙がボロボロ、と出てきた。

何なの!?

わたしの心を揺さぶるだけ揺さぶって

自分に想いは預けるなよって牽制して

そのクセ、ーーーーキスなんてして。

酷すぎる。


怒り任せに、わたしは階段を一段飛ばしで駆け下りて部屋に帰った。


わたしに打たれた頬を手で押さえながらそこに佇む朔斗を残して。


< 67 / 225 >

この作品をシェア

pagetop