桜時雨の降る頃
***


「どうしたの、しーちゃん! 目ェ真っ赤だよ」

翌朝、佳奈ちゃんにそう指摘されたわたしは曖昧に微笑んだ。

「んー、昨夜全然寝つけなかったから」

「そうだったの? しーちゃん疲れたって言ってたし気付かなかったよ。起こしてくれれば付き合ったのに」

「ホントに〜? じゃあ今度はそうする。
……って、今日はさすがに即寝出来ると思う けど」

あはは、と笑い合いながらも

わたしの気持ちは全然浮上してこない。


昨夜の朔斗とのやり取りが頭から消えてくれなかった。

結局あの後も涙がなかなか止まらなくて、眠れないまま朝を迎えた。


……最悪。

どんな顔して朔斗に会えばいいんだろ。


忘れて、って

忘れられるわけないじゃん。

わたし、初めてだったんですけど!!


ロマンチックどころか、腹が立つって
どんなファーストキスなのって
心底嘆いた。


気持ちなんて、ない。

ただの衝動だったとしか思えない。

それも何だか寂しかった。

どうしてキスなんてしたのって問い質す勇気もなかった。









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