桜時雨の降る頃
それはきっと、朔斗のウソだろう。

腫れるほど強く引っぱたいたのかと思うと
少しだけ悪い気がしてきた。


わたしと目が合うと、しらじらしく朔斗は視線を逸らす。


ホントに一瞬しか見えなかったけど、朔斗の目も赤い気がした。



「あれ、雫も目赤いね。眠れなかった? 朔斗も目赤いんだよ」

「うん……寝つけなくて」

「移動で寝れるといいな」

柔らかく笑って言ってくれる。
わたしと朔斗が一緒にいたのは知らないんだろう。赤い目の本当の理由も。

朔斗はさっきから黙ってそっぽを向いたままだ。


「……朔斗、ソコ冷やした方がいいんじゃない?」

自分の頬を指差して告げる。

わたしが言えたことじゃないけど、いつまでも腫れていたら気になる。


「じきに引くよ。気にすんな」

妙につっけんどんな言い方をされて癪に障ったけど、言い返すのはやめた。


わたしたちはケンカばっかりだ。

なのにどうして、昨夜はあんな雰囲気になってしまったんだろう。

どうしてあんなに、たくさん感情を揺さぶられたんだろう。




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