桜時雨の降る頃
昨夜のことに思いを馳せつつ
そのままみんなで歩いていると、陽斗は思い出したように言った。
「そうだ。雫、ごめんな。俺のせいで妙にでかい噂になっちゃったみたいで」
ホントごめん、と両手を合わせてわたしに謝る。
「あぁ……、ううん。誤解も早く解けるといいね。わたしと噂になっちゃ陽斗も迷惑だよね」
「俺は別に大丈夫だけど」
「あはは、いいよ、無理しないで」
そう答えてすぐ、前方から「二階堂」と先生に呼ばれた。
「ん? なんか呼ばれてるから先行くね」
手を挙げて、先生のいる方へ小走りで向かおうとしたとき、
その背中で陽斗の呟きがうっすらと聴こえた。
「無理なんてしてないよ」
陽斗の素直な反応にどう返していいかわからなくて、聴こえなかったふりをしてわたしは先を急いだ。
昨夜の朔斗の言葉が過る。
『気付いてねぇの? 陽斗の気持ち』