ヒステリックラバー

「今泣きそうなんです……我慢して歪んだ顔なんて見せられません……」

「泣き顔も好きですよ。守ってあげたくなる」

私の体が武藤さんの腕に包まれた。

「僕と2人のときは恋人だと思って甘えてください」

そんなことはできないと言いかけた。それでも武藤さんは私に言い返す隙を与えない。

「彼を忘れるために戸田さんに利用されていてもいい。僕への気持ちが曖昧でも構わない」

武藤さんは私の髪にキスをした。

「僕は戸田さんを傷つけて泣かせたりはしませんから」

はっきりと力強い言葉を放つ。

「もう他の男のために泣かないでください。僕はあなたを全力で笑顔にしてみせますから」

こんなにも強く想われてしまったら、もう私は前に進まなくてはいけないじゃないか。
私を大事にしてくれる武藤さんから逃げ続けるなんて不誠実なことはできない。

「ゆっくりでいいです。でもいずれは僕と付き合ってください」

息が詰まるほどの重い言葉だった。私の肩が震えたのを武藤さんは気づいただろうか。穏やかな口調で言った言葉は私の準備が整うまで待ってくれる優しさを感じるけれど、私を放したくない独占欲さえも感じた。

「努力します……」

この人に応えられるよう、正広を忘れる努力をする。

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