ヒステリックラバー
私の言葉に耳元で武藤さんが笑った。武藤さんの唇が私の肌のすぐそばにあるのだと思ったら緊張する。
「待ち遠しいです。僕の恋人になってくれるのが」
武藤さんの腕が私をやっと解放する。
「またデートしましょう」
満面の笑みに私だけじゃなく武藤さんもデートだと思っていたのかと照れてしまう。
「待っててください……武藤さんだけを見れるように……」
そう言うと彼はもう一度私の髪にキスをした。
◇◇◇◇◇
「うわー……ついてないですね」
駅の改札前には人が溢れ、電光掲示板は次に発車する電車の時刻が表示されず暗いままだ。
古明橋公園に行っていた武藤さんの頼みで完成したばかりのイベントポスターを届けに行った。二人で一緒に会社に戻ろうと駅に行くと信号機のトラブルで電車の運行がストップしていた。駅員が拡声器で案内をし、置かれたホワイトボードに書かれた状況説明を読もうと人が群がる。会社員の他にも制服姿の学生が大勢いた。今日は古明橋にある高校の説明会があったようで、駅を利用できない学生の女の子たちが私の後ろで文句を言っていた。
「別の駅から行きましょうか」
武藤さんの提案に私は乗った。ここで電車が動くのを待っても車内は混雑するだろう。それなら近くの別の路線が通る駅まで歩いて迂回し会社に戻った方がいい。