ヒステリックラバー



朝起きて着ていく服を真剣に悩み、メイクの仕上がりを入念にチェックする。去年買ってあまり穿かなかったスカートを出した。正広に会う回数が減ってしまってからは身につける機会のなかったネックレスとピアスをつけた。髪をアップにして鏡を見ると以前よりも表情の明るい自分が見返した。
正広と付き合っていたときでさえこんなに気合は入れなかった。今の私を見たらきっと正広は笑うに違いない。私だって人からどう見られるかを気にする今の自分に戸惑っている。

『その色、よく似合っています』

髪を明るい色に染めた私に対して武藤さんがかけてくれた言葉が甦る。
あの頃は武藤さんのことが大嫌いだった。今では私の心の大半を武藤さんが占めている。私を見る目を気にして、どう思われているかが気になってしょうがない。
武藤さんの目に私は魅力的に映っていたい。彼は最近の変化に気づいているだろうか。

正広とのことを綺麗にしなくてはいけないと思い始めた。別れ話を私が拒否したまま止まっている。向こうはもう私と別れた気でいるのだろう。家の鍵を返しに行かなければ。

私は正広の部屋の合鍵を持っているのに、正広は私の部屋の鍵を持っていない。欲しいと言われたこともなかった。二人の気持ちは私が気づかなかっただけでだいぶ前から差があったのだ。

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