ヒステリックラバー
直矢さん、直矢さん、直矢さん。
私は頭の中で直矢さんと呼ぶ練習をしていた。
ホームセンターに着くと直矢さんは大きなカートにカゴを載せた。
「たくさん買うんですか?」
「フライパンの他にも布団カバーやバスタオルも古くなってきたので換えたいです」
「本当に心機一転ですね」
私の言葉に直矢さんは微笑んだ。そこまで買い換えたいと思った理由は何なのだろうか。
「武藤さんは……」
言いかけて口をつぐんだ。直矢さんは「ん?」と首を傾け何かを言いたそうにしている。私が「直矢さん」と言い直すと満足そうに笑った。
「早く慣れてくださいね。うっかり会社でも直矢さんと呼んじゃうくらいに」
「努力します……」
顔を真っ赤にしながら直矢さんに聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟いた。
「直矢さん料理はするんですか?」
「ええ、休日は大体作ります。美優にも作ってあげましょうか?」
そう言われても困ってしまう。作ってもらうとしたらどこでだろうと考えて、どちらかの家にいかなければいけない状況を思うと、この関係が正式なものにならない限り遠慮しなければいけない。
「そ、そのうち……」
そう答えるのが無難で精一杯だ。
「うちには来客用の食器がないんですよ。美優はどのお茶碗がいいですか?」
直矢さんは青とピンクのお揃いのお茶碗を手に取った。
「可愛いのはこれしかないですね。あとで雑貨屋にも行きますか?」