ヒステリックラバー
「いいえ、これでいいです!」
恥ずかしがる私を見て満足そうな顔をする直矢さんはカゴの中に茶碗を入れた。
「直矢さん、犬見たいです!」
私は勢いよく話題を変えた。このホームセンターはペットショップも併設されている。直矢さんは犬が苦手なのは知っているけれど私は見に行きたかった。
「美優が見たいのならいいですよ」
私は直矢さんの前を早足で歩いた。何度も「美優」と呼ばれて嬉しくてにやけた顔を見られないように。
ペットショップのケージに子犬と子猫がそれぞれ入れられ、寝ている子猫が多い中で子犬はどの子も元気に動き回っている。
「可愛いー!」
私は一匹の柴犬の前で止まった。黒い柴犬はガラス越しに私と目を合わせ尻尾を振っている。はしゃぐ私とは反対に直矢さんはケージと距離をとっている。
「ガラス越しなんだから近づいても大丈夫ですよ」
私は呆れて声をかけると直矢さんは「恐怖心が先にたって無理です」とひきつった顔で答えた。
「そっか、柴犬が特に苦手なんでしたっけ」
「ええ、噛まれたのが柴犬だったので」
目の前の柴犬は直矢さんにも悪意のない純粋な目を向ける。
「美優は飼うなら柴犬がいいですか?」
「うーん……私がもし飼うなら大型犬がいいですね」
小型犬の方が飼うのは楽だろう。けれど抱き締めたときの心地良さを想像すると大型犬に魅力を感じた。
「でも大型犬を飼うのは覚悟が要りますね。散歩も大変でしょうし広い家じゃないと」