ヒステリックラバー
直矢さんは愛美さんに背を向けて歩き出した。私は愛美さんに「失礼します」と言って直矢さんを追った。愛美さんは何かを言いたげに最後まで直矢さんを見ていた。
直矢さんは始終無言で歩いている。愛美さんのことを聞きたい私は言葉ひとつかけられない。電車に乗りドアの近くに並んで立っても直矢さんは無表情だ。
「直矢さん……聞いてもいいですか?」
気まずい空気に耐えられなくなった私はついに切り出した。
「なんでしょう」
直矢さんは困った顔をした。まるで私が何を質問するのかをわかっているようだ。
「堀井さんという方はもしかして直矢さんの元カノですか?」
「………」
「大学の同期生、というだけじゃないですよね?」
直矢さんは相変わらず困った顔で私を見た。
「そうです。僕の元カノですよ」
やはり思った通りだ。今度は私の顔が曇る。
「そう……ですか……」
こんな偶然は残念だ。二人の関係を聞いたのは自分なのに、答えを聞かなければよかったと後悔した。愛美さんはこれから仕事で何度も会う相手だ。直矢さんの気持ちが揺れないとも限らない。
「はぁ……」
スタイルの良い美人だった。オシャレなスーツを着こなして、清楚なメイクにさらさらの髪。愛美さんのような人は女性だって憧れる。そんな人がこれから直矢さんのそばにいる。考えただけで不安に押し潰されそうだ。
お互いにそれ以上話さないまま電車を降りて会社まで歩いた。
「はぁ……」
一歩前を歩いていた直矢さんが突然止まった。