ヒステリックラバー

直矢さんは愛美さんに背を向けて歩き出した。私は愛美さんに「失礼します」と言って直矢さんを追った。愛美さんは何かを言いたげに最後まで直矢さんを見ていた。





直矢さんは始終無言で歩いている。愛美さんのことを聞きたい私は言葉ひとつかけられない。電車に乗りドアの近くに並んで立っても直矢さんは無表情だ。

「直矢さん……聞いてもいいですか?」

気まずい空気に耐えられなくなった私はついに切り出した。

「なんでしょう」

直矢さんは困った顔をした。まるで私が何を質問するのかをわかっているようだ。

「堀井さんという方はもしかして直矢さんの元カノですか?」

「………」

「大学の同期生、というだけじゃないですよね?」

直矢さんは相変わらず困った顔で私を見た。

「そうです。僕の元カノですよ」

やはり思った通りだ。今度は私の顔が曇る。

「そう……ですか……」

こんな偶然は残念だ。二人の関係を聞いたのは自分なのに、答えを聞かなければよかったと後悔した。愛美さんはこれから仕事で何度も会う相手だ。直矢さんの気持ちが揺れないとも限らない。

「はぁ……」

スタイルの良い美人だった。オシャレなスーツを着こなして、清楚なメイクにさらさらの髪。愛美さんのような人は女性だって憧れる。そんな人がこれから直矢さんのそばにいる。考えただけで不安に押し潰されそうだ。
お互いにそれ以上話さないまま電車を降りて会社まで歩いた。

「はぁ……」

一歩前を歩いていた直矢さんが突然止まった。

< 123 / 166 >

この作品をシェア

pagetop