ヒステリックラバー
「動揺ですか? 直矢さんが?」
いつも冷静な直矢さんが動揺するなんて珍しい。
「もう会わないと思っていたのに……なんで今このタイミングで会うかな……」
愛美さんに再会して戸惑っているのは明らかだ。
「でも元カノだからって関係ないです。今の恋人は美優ですから」
自分に言い聞かせるような言葉に増々不安を覚える。
「あの、動揺するってことはやっぱり愛美さんと会いたくなかったですか?」
「そうですね……会いたくはなかったです。色々ありましたから」
直矢さんは悲しそうな顔をする。そんな顔でこんな言葉を聞かされたら私まで悲しくなる。
「直矢さんが嫌でなければ色々の部分を教えてください」
「え?」
「知りたいんです。直矢さんのことを」
普通なら元カノとの過去なんて聞かないのかもしれない。でもこんな直矢さんは初めてだから聞かずにはいられない。例え聞いて後悔するとしても。
「正直に全てを言ってもいいですか?」
「はい……」
だって直矢さんは前に言っていた。女性を傷つけて傷つけられるような恋愛をしていたって。元カノと会ったことでまた傷つくのが私は嫌だから、直矢さんの過去を知りたい。
直矢さんは私から少しだけ体を離して目を伏せた。
「愛美は結婚を考えていた相手でした」
衝撃の言葉に反応するのが遅れた。結婚を考えるほど愛美さんは直矢さんにとって重要な存在だったということだ。
「愛美とは大学の時から付き合っていました。卒業して就職して、お互いに仕事に慣れてきたら結婚するはずでした。新居を決めて家具も家電も買って」