ヒステリックラバー
淡々と話す直矢さんは無表情だ。反対に私の顔は青ざめる。直矢さんは身の回りのものを買い換えようとしていた。それは愛美さんとの生活のために揃えたものだったからではないのか。
「だけど愛美に振られました。それはもうこっぴどく」
「え? 直矢さんがですか?」
さっきの愛美さんとのやり取りから円満な別れではないのは想像できた。けれど直矢さんが振られたようには感じなかったのに。
「愛美にとっては僕の愛情が急ぎすぎてついていけないそうです。結婚を急いだわけではないんですよ。でも僕が次々に揃えていく家具や雑貨に、愛美は良い思いをしなかったようです」
想像できてしまった。直矢さんの直球で溢れる思いを愛美さんは持て余す。
「それに、僕との生活も重いのだそうです」
「重いって……」
そんなことを言われたら夫婦として一緒に生きていく気持ちを否定されたようではないか。けれど私にも覚えがある。直矢さんを重たいと思ったことはなかったか。
私は直矢さんの肩に額をつけた。こんな誠実な人に愛されていた愛美さんが羨ましい。もう直矢さんの過去の人であっても嫉妬してしまう。それなのに愛美さんにとっては重荷になった。
「精一杯尽くしてきましたけど、愛美の愛情より僕の愛情が大きすぎて、もう僕のそばにはいられないと言われました」
「ああ……」と私は声を出した。直矢さんの過去に同情しつつも愛美さんの選択にも納得してしまったのだ。直矢さんの愛情表現は時には照れくさくて、受け止めきれないほど大きいのだ。私は身をもって知っている。