ヒステリックラバー
「別の男もいたようですし」
「え……」
「別れようって言われた時の口ぶりから、他の男性とも付き合っているんじゃないかと感じました」
直矢さんの過去に私が泣きそうになる。恋人が他の人に気持ちがいってしまった辛さを私はよく知っているから。
「美優と同じなんです。恋人に離れていかれてしまったのは。だから僕は美優を傷つけたりはしない」
「急に生活用品を買い換えたのは、それが愛美さんとの生活のために買ったものだったからですか?」
「そうです。もう何年も僕の自宅には愛美との過去が居座り続けていました。今のマンションも愛美と住もうと契約していたところです。今まではそこに住んでいてもよかった。でも美優を好きになって過去を清算する気になりました」
「それで引っ越しやたくさんの買い物を……」
あの部屋にいい思い出がないと言っていたのはこういうことだったのか。
「納得しちゃいました?」
直矢さんは「それはそうですよね」と自虐的に笑いながらも悲しそうな顔をした。
「そんな部屋に美優を招いてすみません。でも愛美はあの部屋に一度も入らなかった」
「え?」
「僕が部屋の契約も何もかも先走ってやりました。だから愛美は僕から離れていきました」
直矢さんは「これが盲目というやつですね」と苦しそうに笑う。
「もう愛美の時のような経験をしたくはない。好きな人ができても怖かったんです。自分を否定されるのが」
「だから私を避けていたのですか?」