ヒステリックラバー

耳元でふっと笑った直矢さんは私の頬にキスをした。それに応えるように私も直矢さんの頬にキスをすると今度は二人の唇が重なった。

「教えてくれてありがとうございます」

「美優に隠し事はしたくありませんから」

路地を出て会社に戻るまでの間手を繋いだ。他の社員に付き合っているとバレてもいい。ビルのガラスの扉を開けるまで私たちはずっと手を繋いでいた。



◇◇◇◇◇



「はい……かしこまりました。武藤に伝えます……失礼致します」

緊急の電話を終えて受話器を置くと、私は直矢さんのデスクからUSBメモリーを持って立ち上がり、外出したばかりの直矢さんを追ってエレベーターに乗った。数分前にオフィスを出た直矢さんはまだビルの近くにいるかもしれない。エレベーターを下りるとエントランスの扉から直矢さんが外に立っているのが見えた。

「直矢さん!」

思わず下の名前で呼んでしまった。今エントランスには誰もいないから直矢さんと呼んでも大丈夫だと思った。
呼んでも直矢さんは振り返ってくれなかった。まっすぐ前を見て私の声が聞こえていないようだ。直矢さんの元に行くと、視線の先にはビルの前に立つ女性がいた。直矢さんと向かい合って立っていたのは愛美さんだった。

「愛美さん……」

思わず呟いてしまうと二人は声を出した私を見た。直矢さんは不機嫌そうな顔をして、愛美さんは困った顔をしている。相変わらずサラサラな髪を風になびかせ、先日と違う色のパンツスーツを着こなしていると仕事のできる女という印象を強くしている。

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