ヒステリックラバー
「勝手ですね。僕が重たいって離れていったのは堀井さんじゃないですか」
直矢さんは声に抑揚をつけないで愛美さんを責める。感情的にならないよう意識しているかのようだ。
「私が間違ってた……」
愛美さんは必死だ。その声から直矢さんと別れたことを後悔しているのを感じる。
「私を本気で愛してくれるのは直矢だけだって気づいたの」
「本当に勝手だね。今更僕にその気はないから」
「直矢……」
よほど愛美さんとの過去に傷を負ったのだろう。私が過去を聞いたときの印象以上に直矢さんは愛美さんとの別れにトラウマを抱えたのだ。
直矢さんは愛美さんを睨みつけていると言っていい。私が今のように直矢さんに睨まれたらショックで動けなくなるだろう。綺麗な顔だから怒ると余計に怖いのだ。けれど愛美さんは直矢さんに怯まない。直矢さんにすがる愛美さんは美しかった。今にも泣きそうな顔なのに見入ってしまう。直矢さんと並ぶと美男美女でお似合いだ。二人を見ていると私の居場所はないのだと思わされるほどに。
「これ以上話すことがないならお引き取りください」
増々泣きそうな顔になる愛美さんに直矢さんは淡々と言い放つ。こんなにも他人に冷たい直矢さんは初めてで私も泣きそうになる。
「美優、もう戻っていいよ」
直矢さんは私に優しく言った。愛美さんとのあまりの態度の違いに私の足は動かない。
「美優」
再度名を呼ばれ我に返ると、私はビルまで足を無理矢理動かした。