ヒステリックラバー
「かしこまりました。経理に伝えます」
話は終わりかと思ったのに愛美さんはじっと私を見ている。綺麗な顔に見つめられて居心地が悪くなる。
「他にも何かございますか?」
恐る恐る聞いた私に「今から少しお時間いただけますか?」と愛美さんは言った。
「はい、大丈夫ですが……何か飾りに変更があるのでしょうか?」
「いいえ、そうではなく個人的なことで」
そう言う愛美さんは気まずそうに目を伏せた。用件の大体の想像がついて、時間は大丈夫と言ったことを早くも後悔した。
愛美さんに連れられ近くのカフェに入った。愛美さんはブレンドコーヒーを、私はカフェラテをそれぞれ頼むとお互いに無言で一口飲んだ。
「あの……それで話って?」
無言が耐えられなくなった私は愛美さんの顔色を窺う。さっさと話を切り上げて会社に戻りたい。
「あれから直矢と電話で話をしました」
「え?」
この間は直矢さんが電話に出てくれないと言っていたのにどういうことだ。
「でも私の話をちゃんと聞いてくれませんでした」
愛美さんはテーブルに置かれたカップをじっと見て言った。
「直矢はもう私に気持ちはない。その一点張りでした」
愛美さんの話が理解できなくて首を傾げた。直矢さんを振ったのは愛美さんの方なのに、今になってどうして直矢さんにこだわるのだろう。
「私、直矢と別れてから新しい恋人と付き合って……でも違うんです。直矢とは全然違う」
「………」
「直矢が私にとってどれだけ大事な人なのか別れてから気がついたんです」