ヒステリックラバー

「自分勝手ですね」

先日の直矢さんと同じ言葉を思わず口に出してからはっとした。それは私の本音だけれど、あまりにも無意識に口にしてしまった自分に驚いた。

「直矢を動揺させているのは自覚しています……」

愛美さんは真顔で答えた。自覚しているのなら潔く身を引くべきだ、と私は怒りが湧いた。

「私が言える立場ではないですが、直矢さんと再会した途端に復縁したいと申し出てくるのは虫がよすぎるのではないでしょうか」

私の指摘に愛美さんは目が泳いだ。私は自然と喧嘩腰になっていた。今ものすごく嫌な女だと自覚はある。でも偶然再会しただけなのに今更よりを戻したいだなんて、そんな話受け入れられない。

「直矢とは結婚も考えました」

「それは聞いています。でも別れを切り出したのは愛美さんだとも聞いています」

愛美さんは目を伏せた。その仕草はとても妖麗だ。女の私だって目を奪われる。

「怖くなったんです。私の気持ちが追い付かないほど早く結婚に向けて準備をする直矢が。私だけおいていかれるような気になってしまった……」

想像できた。直矢さんが愛美さんをどんなに好きで、どんな思いで結婚の準備をしていたのか。今の直矢さんに愛情をぶつけられている私には直矢さんの気持ちもわかるけれど、愛美さんの戸惑う気持ちもわかってしまった。

「直矢の好きの大きさと私の好きの大きさが違う。その差がどんどん広がっていくようで辛かった……」

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