ヒステリックラバー
精一杯言葉を絞り出して直矢さんを引き留める。先ほど飲んだワインのアルコールが私を大胆にする後押しをした。
「では、ご馳走になります」
直矢さんは微笑んだ。
マンションの扉を開けて目の前の階段を上る。私たちは手を繋いだまま言葉を交わさない。誘ったのは私なのに直矢さんを家に招くのは緊張する。
2階にある私の部屋は階段を上った目の前の部屋だ。カバンの中から鍵を探すのにいつも以上に手間取り、鍵穴に差し込む瞬間がこんなにも緊張したのは初めてだ。
「どうぞ……」
「お邪魔します」
直矢さんを玄関に促してあとから部屋に入り、直矢さんが靴を脱いだとき後ろから抱きついた。
「美優?」
直矢さんは振り返って私と向かい合った。
「今夜はいつもと違いますね。どうしたんです?」
直矢さんはなんだか楽しそうな声を出す。
「すみません……私……」
大胆な行動とは反対に声に力がこもらない。直矢さんに触れていたくて、愛されていると実感したくて堪らない。私は靴を脱ぎ再び勢いよく直矢さんに抱きついた。
「美優……」
私の名を呼ぶ唇を塞いだ。背伸びをして唇を求める私を直矢さんは驚いてはいるけれど拒絶しない。唇を啄んだままネクタイを緩めにかかった時に直矢さんはやっと焦り始めた。
「美優……ちょっと待って……」
私の両腕を掴んで下ろした直矢さんは私の頬に手を添えて顔を優しく引き離す。
「何かあったのですか?」