ヒステリックラバー
私を見つめる直矢さんの視線から逃れるように顔を伏せた。
「何も……何もなくても求めちゃいけませんか?」
「大歓迎ですが、今日の美優はいつもと違いますね。僕はそれが気になります」
「………」
愛美さんのことを言うべきだろうか。でも私が愛美さんを意識しているなんて直矢さんには知られたくない。私も女として、直矢さんの恋人としてのプライドがある。
「私、いつも直矢さんに愛情を与えられてばかりだから……今日は私からって思って……」
私から直矢さんに何かをしてあげられたことはなかった。だから今夜は私が愛情を注ぐのだ。
「その気持ちだけで僕は十分幸せです。美優からだってたくさん愛情をいただいていますよ」
「そうでしょうか……」
「仕事もプライベートもそばにいられるだけで幸せです」
仕事で大したことはできていない。プライベートも私は完全に自信を失っている。直矢さんの気持ちを繋ぎ止めておけるほどの魅力を私が持っているとは思えない。
「また自信を無くしているのですか?」
直矢さんの言葉に目頭が熱くなる。素直に認めるのは恥ずかしいけれど頷いた。
「何度も言っていますよ。美優は魅力的です。本当は片時も離れたくありません。僕がこう言っても不安ですか?」
「すみません……」
直矢さんが私を大事にしてくれているのは分かる。でも不安も抑えられない。
「僕の方こそ、美優を不安にさせてすみません。七夕が終わればもう愛美と会うことはありません」