ヒステリックラバー
顔を寄せ合って話をする私たちを睨むかのように視線を向ける。睨まれていると感じるのは大げさかもしれないけれど、私は今の愛美さんが怖い。
「七夕が終わったら夏休みを取って旅行に行きませんか?」
この提案に私は嬉しすぎて持っていた資料を思わず握りしめる。
「嬉しいです!」
「じゃあ行きたいところを考えておいてくださいね」
私がテンション高く頷くと直矢さんは向かいの信号機の横の街灯につけられた飾りに目をやった。私も直矢さんの視線の先を見ると、サッカーボールほどの光沢のある玉がブドウのように重なった飾りの下に愛美さんが立っていた。
愛美さんは飾りを見上げ、街灯に登った作業員の男性が飾りをロープで吊り下げる動作をしていた。
直矢さんがじっとその様子を見ている。私はそんな直矢さんに不安を感じた。どうして愛美さんを見ているのだと。
「直矢さん? どうかしました?」
「街灯の飾りを外そうとしているようなんです。変更の連絡をいただいていたのか思い出しているのですが……」
「え?」
確かに作業員は下の愛美さんの手の指示によって飾りを下ろそうとしている。
「どうしたんでしょう……ちょっと私聞いてきますね」
あそこに行こうとする直矢さんを制して私は愛美さんのところに向かった。
「お疲れ様です」
私が声をかけると愛美さんは無表情で「お疲れ様です」と答えた。
「すみません、この飾りって変更の連絡をいただいていましたっけ?」