ヒステリックラバー

私に宣戦布告してきたときの言葉通り、愛美さんの熱烈なアプローチを受けたら直矢さんはどう心が変化してしまうか不安だ。

思わず直矢さんを見た。彼はこちらに歩いてくる。まるで私たちを睨みつけるような厳しい顔をして。

「それで直矢は私に……」

「危ない!!」

頭上から大声が降ってきた。その瞬間私の目の前に大きくて光るものが落ちてきた。

「きゃっ!」

横に立つ愛美さんが悲鳴を上げたのと同時に地面にガラガラと光る玉が落ちた。四方八方に散らばったそれは真上に飾られていた光沢のある飾りだった。
見上げると街灯によじ登っていた作業員の男性が切れたロープを持ちながら目を見開いて私たちを見下ろしている。

「愛美!」

直矢さんの声で下を向くと愛美さんがうずくまっている。いつの間にか駆け寄った直矢さんがしゃがんで愛美さんに声をかけた。

「愛美、大丈夫か?」

愛美さんは右の腕を押さえて顔を歪めている。

「大丈夫……少し掠っただけで……」

「念のため病院に行こう」

直矢さんは愛美さんを立たせると腕の他に怪我がないか全身を慌てて確認する。そんな直矢さんを愛美さんは戸惑った顔で見つめる。駆け寄ってきた別の広報の男性に直矢さんは焦った声で謝罪した。
愛美さんと男性が近くにある病院に歩いて行くのを見届けると他の作業員に混ざって玉を拾い始める。圧倒されて動きの止まっていた私も慌てて拾うけれど動揺を隠せない。目の前の状況に混乱していた。散った玉は歩道に散らばり一部が道路にまで転がった。走行中の車が大袈裟なほどに避けて通り過ぎていく。

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