ヒステリックラバー
怒る私に山本さんは「ごめんごめん」と軽い口調で反省する様子を見せない。
「そりゃ山本さんは武藤さんをライバル視してますからいい気味ですよね」
「いい気味だなんて思ってないよ。むしろ心配してる」
言葉で言うほど心配していなそうな山本さんに私は「何か用ですか?」と冷たく聞いた。
「一昨年の海岸でのグルメイベントで携わった業者の一覧ってどこ保存?」
「紙でしたら壁側キャビネットの上から2列目に、データは営業共有サーバーに同じ名前であります」
「さんきゅー」
お礼を言いながら山本さんは会議室を見た。
「武藤は大丈夫だよ。あとで戸田がキスでもしてやりゃ元気出すって」
「は? 何言ってんですか?」
「だってお前ら付き合ってるんだろ?」
「え? あの……」
私は焦った。山本さんに私たちの関係がバレているとは思わなかった。
「知ってたんですか? いつから?」
「たぶん付き合ってすぐから知ってたよ。お前らの雰囲気はわかりやすい」
山本さんは妙に勘のいい人ではあるけれど、面と向かって付き合っていると言われると照れてしまう。
「戸田がいれば武藤は大丈夫だよ」
「そうでしょうか……」
今の私には自信がない。
愛美さんの上に飾りが落ちてきたとき、直矢さんは愛美さんをとても心配していた。人として、仕事相手に対して当然のことなのだけれど、私は愛美さんへの想いがまだあるのではと不安になった。直矢さんは愛美さんのすぐ横にいた私のことは一切心配してくれなかったのだから。