ヒステリックラバー
◇◇◇◇◇



自宅に帰って1時間ほどたった頃、玄関のチャイムが鳴りドアスコープを覗くと直矢さんが立っていた。

「直矢さん!」

私はドアを開け直矢さんを迎え入れた。玄関に入った瞬間直矢さんは私を抱き締めた。

「直矢さん……苦しい……」

「美優……美優……」

私の名を連呼して体中撫でるように手を回す。

「くすぐったいです……」

「怪我は? どこも痛くない?」

そう聞かれて初めて直矢さんが私を心配してくれたのだと理解した。

「私は大丈夫です。何も当たりませんでした」

直矢さんはほっとしたのか再び私を痛いほど抱き締める。

「ごめん。僕動揺して……美優に飾りが当たってないのは見えてたんだけど、それでも心配だった」

そうだったのか。直矢さんはちゃんと私を見ていたのか。

「愛美さんはどうでした? 七夕祭りはどうなります?」

本当は直矢さんの口から愛美さんのことを聞きたくはない。でも今後のことを聞かずにはいられない。

「連合会の方から愛美は軽い打撲で済んだと聞きました。七夕祭りも予定通り行われます」

「よかったですね……愛美さんが重症じゃなくて」

これは私自身にも向けた言葉だ。彼女に何かあったらきっと直矢さんは自分を責める。直矢さんの心にこの先ずっと愛美さんが居座ってしまう。
直矢さんは私の言葉を不審に思ったようだけど「本当によかった」と微笑んだ。

「今夜食事に行けなくてごめんね」

「いいんです。またいつでも行けます」

< 149 / 166 >

この作品をシェア

pagetop