ヒステリックラバー
事故の直前に愛美さんが言っていた直矢さんとの電話の話が引っ掛かっていた。そのあとに怪我をした愛美さんを気遣う直矢さんの姿に嫌な気持ちになった。本当に愛美さんに未練はないのだろうか。結婚を考えた相手なのだから再会したら気持ちが戻らないとも限らない。
「美優?」
直矢さんは私の顔を覗きこむ。けれど私は直矢さんの顔を見返せない。一度芽生えた疑いはそう簡単に消えない。本当に直矢さんは私のことが好きなのだろうか。
『だから他に目が行ったのも勘違いかもしれない』
愛美さんに言われた言葉がまだ私に刺さったまま抜けない。愛美さんに受け入れてもらえなかった愛情を代わりに私に向けて満たしているのではないのか。
一気に心が悲しみで溢れる。直矢さんのような人が私を好きになってくれるはずがない。正広にも振られた女としての魅力のない私よりも、愛美さんの方がずっと綺麗で直矢さんに相応しい。
「美優? 大丈夫ですか?」
「直矢さん……愛美さんのところに行ってあげてください」
「え?」
「愛美さんも今日のことはショックだったはず。今は直矢さんにそばにいてほしいと思っているかもしれません」
「本気で言っているのですか?」
直矢さんの声は怒りを含んでいる。私を抱く腕の力が弱まる。
「美優、勘違いしてないかな? 僕はもう愛美に何の感情もない。ただの仕事相手だよ」
「仕事だからこそ、愛美さんの機嫌を損ねてはだめです」