ヒステリックラバー
「きちんと先方には必要なことをしてきた。これ以上僕は美優のそばを離れない」
「私よりも……愛美さんの方がお似合いです……」
直矢さんの気持ちに何も返せない私よりもずっといい。
「本当に僕には愛美がいいと言うのですか?」
直矢さんの表情が曇る。
「僕を捨てた人のところに行けと?」
「私は自分の寂しさを埋めるために直矢さんを利用した……私に二人を邪魔することはできません……」
「美優を愛していると言っても?」
私の目に涙が溜まる。
「愛美さんは復縁したいと思ってます。直矢さんも一度は結婚を考えた人です……」
「僕が美優を呆れるくらい愛していると言っても愛美のところに行けと?」
頬を涙が伝った。私は迷った。直矢さんの気持ちは純粋に私へのものなのか、愛美さんの代わりなのか。信じきれない私には直矢さんに愛される資格はない。
「やっぱり……美優も僕が重いって遠ざけるんですね」
「そうじゃないんです……遠ざけたいんじゃない……」
正広に選んでもらえなかった。結婚したいと思ってもらえなかった女だから、不安になってしまう。
「僕のことが嫌いになりましたか?」
「違います!」
嫌いになんてなるわけない。だけど愛されるほど怖くなる。愛された分だけ失ったら心が空っぽで脆くなり壊れる。
「一度気持ちを整理しましょう。私も直矢さんもお互いに……」
そう言うと床に私の涙がポタポタ落ちる。
「わかりました。今日はもう帰ります」
直矢さんは寂しそうな顔をした。整った顔が余計に憂いを見せる。