ヒステリックラバー
衝撃と共に太ももを階段にぶつけた。けれどそれ以上の痛みはなかった。私の体は後ろから抱き締められ、背中と頭を守られていた。突然のことに驚いて動けなくなってしまった。
「大丈夫ですか!?」
耳元で直矢さんの焦った声がした。顔を後ろに向けると片膝をついた直矢さんの腕が私の腰に回っている。頭を階段にぶつけなかったのは直矢さんの胸がクッション代わりになったからのようだ。
「………」
「怪我はありませんか!?」
蒼白な顔が私の顔の目の前にある。直矢さんが私の背中を支えて守ってくれたようだ。そうでなければ大ケガをしていたかもしれない。
「はい……大丈夫です……」
「よかった」
直矢さんはほっとしたのか笑顔になった。それは久しぶりに見る笑顔だった。怪我がなかったことよりもその笑顔を見れたことに安心した。
私たちの周りには思わず放り投げた段ボールの中身のうちわが散乱して、直矢さんが持っていた段ボールも落ちて角が潰れている。ぱっと見たところうちわに損傷はないようだ。
「あの、ありがとうございます。助けていただいて……」
大事な荷物を放り出して私を守ってくれたのだ。
「美優……」
直矢さんが私の顔をじっと見つめる。その顔はもう笑顔ではない。真剣な顔で私の腰に腕が回ったまま、後ろから抱き締められて見つめ合った。