ヒステリックラバー
もう見慣れた整った顔に、私を捕らえて放さないと思わせる目の力に圧倒されて動けない。直矢さんに笑いかけてもらえたら、気にかけてもらえたら、それだけで私は安心するのだ。このままこの人にずっと抱き締められていたいと願う。
私は直矢さんが好きだ。改めてそう思った。
「美優……」
直矢さんは私を強く抱き締めた。後ろから耳にキスをされた。
「ん……直矢さん?」
「美優……」
直矢さんは私の名を呼びながら何度も耳と髪に口付ける。この愛情表現は私へのものだと素直に受け取っていいだろうか。
愛美さんの代わりではないといいな。これからもずっと直矢さんに愛されていたい。
「あの……直矢さん、私……」
「すみません!」
直矢さんは突然キスをやめると私の体を支えながら立ち上がった。
「え?」
直矢さんの一段高い位置に立たされ目線が同じになり、私の戸惑う目と直矢さんの焦った目が合わさった。
「気持ちを整理すると言ったのに、今美優のことしか考えていなかった」
直矢さんは髪を掻きむしった。
「僕はつい美優に触れてしまいたくなる……」
直矢さんは自分に対して怒っているようだ。成り行きとはいえ私を抱き締めてしまい焦っている。
「あとは僕が運びますから戸田さんは戻ってください」
「でも……」
「もういいですから」
その声音は拒絶を含んでいた。今まで私を抱いて甘い声で名を呼んでいたのに、直矢さんはまるで別人のように何も言わず無表情でうちわを拾い始めた。