ヒステリックラバー
ぶつけた太ももが痛んだけれど、直矢さんのそばにしゃがんで一緒にうちわを拾った。そんな私を彼は一瞬見たけれど黙々と拾っている。
「すみません、私のせいで」
「とんでもない。手伝わせてしまったのは僕ですから」
抑揚のない声に気まずい関係にしてしまったことを後悔し始めていた。
結局最後まで二人でうちわを拾ってビルの前に止めた車に載せた。
「ありがとうございました。この後戻りは遅くなるので戸田さんは定時で帰ってくださいね」
「わかりました」
短い会話を終えると直矢さんの車が走り出したのを見届けた。
私は直矢さんが好きだ。直矢さんに愛され続けたい。
気持ちを整理してと言ったのは私だけれど、素直に直矢さんの言葉を信じればよかった。愛美さんの存在を勝手に不安に思ってるって正直に打ち明ければよかった。劣等感をさらけ出せばよかった。今それを伝えても直矢さんはこんなバカな私を許してくれるだろうか。
遅くなってもいいから直矢さんを待っていようと決めたけれど、定時を過ぎて社員のほとんどが帰ってしまっても直矢さんは戻ってこない。もしかしたら直帰してしまうかもしれないのに会社で待つ意味はないのではと思い始めていた。
明日から七夕祭りが始まる。直矢さんと行こうと決めていたのに、待ち合わせの話しも何もできていない。
帰ろうか迷っていると山本さんが出先から戻ってきた。
「あれ? 戸田まだいるの?」
「まあ……ちょっとだけサービス残業です」