ヒステリックラバー
知らなかった。関わりの少ない二人だと思っていたのにプライベートも話していたのか。
「だからさ、ここで待ってないで武藤のところに行けよ」
「別に待ってるわけじゃないです……」
「嘘つけ、無意味なサービス残業はやめろ」
山本さんには嘘がばれている。
「あいつまだ銀翔街通りにいるよ。今行けば会える」
「………」
直矢さんは私が会いたいと思ったとき駆けつけてくれた。でも直矢さんが私を求めてくれたとき、私は直矢さんを突き放した。
本当に私は直矢さんに甘えて自分勝手に接していた。直矢さんはいつだってありのままの私を愛してくれていたのに。
「武藤も今戸田に会いたいと思ってるよ。行けって」
山本さんに後押しされて私は立ち上がった。
「山本さん、フロアの電気は全部消してってください」
「わかってるって」
「扉も忘れずに鍵かけてくださいね」
「了解」
私は「お先に失礼します」と言ってカバンを持ってオフィスを出た。
銀翔街通りは街灯とビルから漏れる明かりに照らされた七夕飾りが風に吹かれキラキラと輝いている。
七夕まつりの本番は明日だけれど立ち止まって写真を撮る人が目立つ。
私は設置作業中に飾りが落ちた街灯の下で立ち止まった。スマートフォンを出して直矢さんに電話を掛けた。今どこら辺にいるのだろうか。
「もしもし」
すぐに聞こえた声は疲れているようだ。
「お疲れ様です……」
「お疲れ様」
恋人同士のはずなのに事務的な挨拶で会話を始めるとはなんて寂しいのだろう。