ヒステリックラバー

「あの……私、今銀翔街通りにいます」

「え?」

直矢さんは驚いている。もうすでに帰ったと思っている私が来たのだから無理はない。私も自分の行動に驚いている。

「直矢さんは今どこですか?」

「美優の前にいますよ」

その言葉に私は通りを奥まで見渡した。街灯と、揺れて光を反射する飾りと、車のライトで夜だというのに街は明るい。その中にこちらに向かって歩いてくる直矢さんの姿が見えた。

「どうしてここに来たのですか?」

「直矢さんに会いたくて」

数メートル先の直矢さんが微笑んだ。お互いの姿を確認しても電話を切らずに話し続ける。

「僕に? 会いたかったの?」

「はい」

私も直矢さんに向かって笑いかける。直矢さんが突然止まった。

「僕は君のところに行ってもいいの?」

スマートフォンから聞こえる声は不安そうだ。数歩前にいる直矢さんの表情は硬い。

「はい。直矢さんに来てほしいです」

私が寂しいとき、必要としているときはそばに来てくれると言った。今私は直矢さんにそばにいてほしい。
直矢さんは電話を切るとゆっくりとこちらに足を踏み出した。目の前で立ち止まると私もスマートフォンをカバンにしまった。

「飾り、綺麗ですね」

「そうですね。これまでより一番綺麗だと自信を持っています」

街灯に反射する色とりどりの飾り。クリスマスのイルミネーションにも負けていない。今年はメディアからの取材の依頼が多い。間違いなく過去と比較にならないくらい銀翔街通り七夕祭りの中でも最高に綺麗で話題になるだろう。

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