ヒステリックラバー
「あの武藤くんの下につけるんだ。戸田さんにとってもメリットはある。やりがいのある仕事ができるチャンスだよ」
部長の言葉に苛立ちを覚える。今山本さんの下についていたってやりがいのある仕事をしているつもりだ。確かに武藤さんの方が派手な案件をいくつも持っている。大手顧客も多い。けれど山本さんも成績は抜群だ。
「戸田さんが一番武藤くんのアシスタントに相応しいんだよ。気配りができるし先輩後輩からの信頼も熱いしね。今は武藤くんも大事なときだから優秀な戸田さんにサポートしてほしいんだ」
「そうですか……」
高評価を頂いているのに私の口からは素っ気ない声が出る。確かにありがたいお話だ。けれど精神衛生上よろしくない。自分でも呆れるほど異動の話を拒絶している。
「ここだけの話だけど、武藤くんが次長になるかもしれないんだ」
「そうなんですか?」
では山本さんは武藤さんに先を越されたのだ。
「戸田さんはあまり嬉しくはなさそうだけど、そんなに山本くんと組んでいたいのかね?」
「まあそうですね……」
山本さんとは私が入社した時からの付き合いだ。たくさん助けてもらったし、仕事を教えてもらった恩がある。
「もしかして、山本くんと付き合っているのか?」
「え!? 違います!」
慌てて否定した。山本さんと付き合っているわけがない。仕事のできるイケメンなところは武藤さんに負けていないけれど、山本さんはチャラいのだ。私の好みじゃない。何より私には正広という恋人がいる。
「山本さん彼女いますよ。私にも彼氏がいますし」
「なら会社の将来を期待されたエースのパートナーは戸田さんが相応しい」