ヒステリックラバー
一方的に押しかけたのだから仕方がないけれど、昨夜の正広は遅く帰ってきてあまり話もできなかったから、せめて朝食は一緒に食べたいと先に起きた。たまには正広の好きなオムレツを作ってあげようと思った。
正広の無防備な寝顔を見て思わず口元が緩んだ。何年たっても何度見ても、恋人のこの寝顔は愛しくて癒される。完全に目が覚めた私はベッドから下りて寝室を出た。
正広とは付き合って5年になる。同じ大学で偶然地元も近かったことから距離が近づいた。穏やかに関係を続けてきて別々の会社に就職してもお互いの時間を大事にしてきた。今のところ大きなケンカもなく別れようと思ったこともない。
このまま正広と結婚するかもしれない。何となくそう思っていた。きっと正広となら穏やかで明るい家庭が作れるはずだ。お互い26歳になるし、長年付き合っているのなら結婚してもおかしくない。正広も私に対して同じことを思っていてくれればいいと願っていた。私はいつだって正広からのプロポーズを受ける準備は整っていた。
「美優……?」
リビングに入ってきた正広は起き抜けの掠れた声で確かめるように私の名を呼んだ。
「おはよう。ご飯できてるよ」
「……ありがとう」
目を擦り髪を掻きむしった正広はテーブルに用意された朝食の前に座った。私の朝食はコーヒーにイチゴジャムを塗ったトースト。正広にはオムレツと納豆とご飯にお味噌汁、そしてコーヒーを用意した。言われなくたって作ってあげる正広の1番好きなメニューの組み合わせだ。
「美味しい?」
聞かなくても答えはわかっているけれど聞かずにはいられない。